ある日携帯に見知らぬ番号から電話が入る…
「ミスター?!マイケルジャクソンだ!元気か?」
忘れもしないこの胡散臭い声は… そう、マレーシアのタクシードライバー、自称マイケルジャクソンであった。
数ヶ月前、まるで夜逃げのごとく突如音信不通になり、てっきりマラッカ海峡の海賊にでも売り飛ばされたのではと少しくらいは心配していたが…
「今度のタクシーはパワーアップしたから次来るときは是非連絡してくれ!」
何があったのか聞こうとすると、どこかの討論番組の司会者のごとく人の話を遮り一方的に自分の用件だけを告げて切れた。
失踪中に何があったのか興味津々だったので、後日マレーシアに行く時に着信履歴を頼りにコンタクトを取ってみた。
いつものごとく白タク勧誘のオヤジ達のワキガ、いや脇をすり抜け、彼のタクシーを捜していると、車は案外簡単に見つかった。
運転席、助手席、左右リアの窓ガラスの4面に「Power UP!」とステッカーが貼られていたからである…
特にうれしくもない再会を分かち合い、「Auto Door」と書かれたドアをいつものように手で開けて乗り込む。
しばらく走らせた後、核心部分にさりげなくもなく触れてみる…
「この数ヶ月間何してたんだ?」
すると、
「トラックの運転手をやっていた。」
と、答え、その後何故突然姿を消してそんなことをやっていたんだと突っ込んだ質問をしても、どこかの農相のようなトンチンカンな回答を繰り返し、要領を得ない。
おそらくピンハネでもして会社から追われていたのであろう。あまりにもわかり易い狼狽ぶりだった為、それ以上は触れずに話を変えてみた。
「ところでこの“パワーアップ”っていうステッカーはどっから仕入れたんだ?」
と、何気に手動からパワーウィンドウにバージョンアップしているのを、これかよと思いながら窓を開けてみると、
「バリバリバリ…」
とゆっくりと乾いた音を残し、跡形もなくはがれてしまった。
「悪い悪い!」と
笑いながら謝りながら窓を閉めようとすると、今度は、
「ウィーン、ウィ、ウィ…」
と、
電動こけしのような音を立てるがなかなか閉まらない。
「手で引っ張るんだ!」
と言われ、パワーウインドウのスイッチを押しながら手で引っ張ってみると「ギギギッ」と鈍い音を立てながらようやく閉まった。
ある意味パワーウインドウだなと妙に感心しつつ、ふと助手席側のサイドミラーに目をやると、今度はミラーがない…
「マイケルさん!ミラーがないぞ!」
「大丈夫だ!使わないから!」
「いや、使えよ!」
このようなやり取りをしながらその日は無事に目的地に着いたものの、後日とんでもない事件に遭遇するとはこの時は想像もしなかったのである…
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